初めてのネイサン・チェン②
勝って欲しい!と強く思う選手がいると、途端に苦しいくらい緊張しませんか?
脳が痺れるくらい暑くなって、でも鳥肌が立つくらい寒い気もして、素晴らしい演技を信じる気持ちと、力を出し切れない演技が頭をよぎって怖くなる気持ちと。
想像を絶する練習を積んできてるのに本番の一回で失敗したらやり直せない、それを見守るんだから無理もない。
そう感じた瞬間に選手自身の緊張の大きさと、それを感じさせずに大観衆の中で演技をこなせるだけの努力の量に考えが至って頭が下がる。
だからこそ、プレッシャーに押し潰されずにリンクに立ってるだけで心に響くのかな。
それでもやっぱりその中で素晴らしさを見せつけて欲しいと思わずにはいられないから、ファンも一緒に戦っているんですよね。
自分が強く強く祈ることで好きな選手がミスなく滑ることが出来るんじゃないかって、こんなに願ってるんだから叶うはずって、自分が必死に願うことで得た気持ちをそのまま選手に届けながら。
"
ただ着火するだけで光輝くわ
だってあなたは花火なんだから
貴方の素晴らしさを見せつけて
皆が歓声をあげるから
空を思いっきり駆け巡るの
そしてあなたの色で鮮やかに咲いて
その空に吸い込まれそうな心地にさせて
"
Firework ーKaty Perry
画像に書かせてもらった歌詞の和訳ですが、まさに世界選手権2019男子シングルFSが始まる前の私の心境。(抜粋してる+自分なりの訳なので色々ご了承ください)
やってやりなよ!
見せつけてやって!
あなたは素晴らしいんだから!
って強く背中を押す良い曲ですよね◎
1位のネイサンと6位の昌磨でも16点差。
FSの要素の多さと4回転の基礎点考えると何が起こるか分からないなって。
SPを観て「上手い子がいる、この人のパフォーマンス好き。」と思ったネイサンがそのまま勝ってくれても良い。
勝ちを狙いに行きつつ吹っ切れた昌磨が逆転優勝するのも良い。
私がフィギュアスケートを観なくなる少し前、男子シングルは羽生結弦が絶対王者パトリック・チャンに下克上すべく猛追しているような状況で、あんな熱量でロックオンされて追いかけられたら正気保てない、、って思いながら観てた。
ソチと平昌の間の4年に4Fやら4Lzやら夢のようなジャンプを実装した次世代が台頭して羽生氏と互角に優勝争いして彼を脅かしていたのに、私がフィギュアスケートから離れていたことや、大きい試合での直接対決が少なかったこと、オリンピック連覇のインパクトもあって私の中ではすっかり羽生一強時代が繁栄しているイメージで。
だからファンの方には怒られちゃいそうですが、かなり久々に男子の試合観る機会だったので、また次世代の「下克上」を観たいと思ったんです。
羽生氏に負けて欲しいという気持ちではなくて、当時ワールド三連覇して無双状態だったパトリックを半ば乱暴にも思えるほど残酷に攻略して頂点から引きずり下ろした、勝利と承認に貪欲でどれだけ手に入れてもそれを渇望してやまない彼に勝つ選手がいたら?それはどんな選手か、どんな風に勝つのか、また彼はどんな風に負けて、その時どう受け止めて、どんな顔で何を言うのか、興味があった。
魔王か何かを倒して契約でもしたんじゃないかっていうほどの、本人で言うところの絶対王者のような振る舞いと空気を纏って、その役に深く入り込んで、それが隠しもしない敵意となって視線とか所作に表れる。(ドラマチックに色んな自分を演出する能力は見る人によってはフィギュアスケートにおける表現力にもなり得るのかもしれない。)
そんな氷も溶かしそうなほどに燃え滾ってる選手が背後に迫っている全く油断できない状況が余計に私の不安を煽りました。
何せ私はネイサンの演技をまともに観たのはSPが初めてで、FSの構成すら知らなくて、そのまま1位をキープ出来ると前向きに信じる根拠がほとんど無かったんです。
リンクインして観客に挨拶する時も羽生氏はどっぷり自分が主人公の世界に入り込んでて、追われる側のネイサンや追いつけ追い越せの昌磨を応援している私はその凄みが恐ろしかった。
SPでミスしたことで、手負いの猛獣みたいに神経逆立ててるこの人にどう立ち向かうの?って。
でもその直後のネイサンの挨拶を見て肩透かしを食らった気分になりました。
にこっと笑って見せたからです。
一瞬、え、今から何が始まるか分かってる?大丈夫?って思っちゃうくらい力の抜けた笑顔と所作でしたが、その後に俯いた時の細められた目と上がった口角に自分の限界に挑みにいく興奮を抑えきれない気持ちのはやりと、それを必死でなだめる冷静さが透けて見えた気がして、そんな自分もひっくるめて楽しんでいるような余裕にゾクっとして鳥肌が立ちました。
6分間練習も落ち着き払って自然体のまま完全に自分をコントロールしていて、この人が1番怖かったりしてって。
けど4T入ったらすごい!って時代からタイムスリップしてきた私にはどう見てもネイサンの構成予定は銀河選手権用の難度で、「せっかく1位なのに何でこんなスーサイド構成組むの?」って泣きたくなっていました。
ヴィンセント、昌磨、リッツォと滑走が進んで羽生氏の演技。
日本開催だし、観客がどんな自分に熱狂するのか研究した上で曲も振りも分かりやすく盛り上がるように計算してあるのが分かるプログラムだし、見た目ノーミスすれば勝ち確みたいなとこあるかなーって。
で、それをやってのけられたから、うわーやられた、これは逆転優勝の流れだ、マスコミも喜びそうなシナリオだ、って半ば諦めモードになってしまった。
ノーミスのFS自体そんなお目にかかれないのにネイサンは超高難度構成だし、ネイサンのこと全く信じてなくて今となっては申し訳ないけど、1位を守れるイメージが全く湧かなかった。
文字通りの割れんばかりの大歓声の中をリングサイドでコーチと抱き合う羽生氏と入れ替わりでその後ろをスーッと出て行ったネイサンは、遠くに獲物を見つけて静かに向きを変えて忍び寄るシャチみたいだった。
スタート位置につくまでの表情を見ていたら、がむしゃらな猛追をどう受け止めてどう立ち向かうんだろうって疑問に答えが出た気がした。
別に何も受け止めない、ただペースを乱されないように、ひらって風になびいてかわしながら我が道をいく人だって。
何も読み取れない淡々とした表情。
どこか他人事のような余裕。
掴み所のない不思議な人。
どれだけ緊張するんだろう。
想像しただけで足が竦む。
それから数分の間に起きたことを思うと泣きそうになる。
始まった音楽は、 緊張を増長させるような静かで厳かな曲で、冒頭の段階で分かりやすく盛り上がって助けてくれる曲じゃないって思って私の不安と緊張は頂点に。
その静寂の中で丁寧に跳んだダイナミックで重みのある遠心力を感じる男らしい4Lz。
曲のパワーに乗っかった振りの音ハメではなくて、誤解を恐れずに言うと「振りにも至らないただの踏切と着氷の音」なのに逆に曲を引き立ててしまう芸術的にも技術的にも言葉を失う圧巻のジャンプ。
こんなジャンプ冒頭に跳ばれたら何よりの幕開けだし、私の感性だと芸術も技術も極限まで突き詰めるとこうなるっていう容赦のないシャープさを見せつけられた感じがした。
何回も何回も繰り返し観た今となってはLand Of Allを堪能したと言えるけど、一回目はただ、とにかくネイサンに勝って欲しくてプログラムを観たというよりはジャンプを見守ったという感覚でした。
静かながら広がっていくような壮大な曲の雰囲気も相まって、1つジャンプを降りるたびに、空気を掻き分けるように身体を動かすたびに、厚い黒い雲に覆われた空が少しずつ浄化されて白くなっていくような、最後は雲の切れ間から天使の梯子が降りて希望が繋がれたような、、フィニッシュで手のひらを開いて顔を上げた時は大天使ミカエルでも召喚するのかと思った(笑)
氷上の王子様感の無い男らしくてモダンでスタイリッシュで難しい大好きなプログラムなので、Caravan同様また別で詳しく書きます。
英雄感に満ちてたんだけど、同時に今までの世界を破壊するような存在にも見えた。
空気に飲まれず自分に打ち勝つっていう真っ直ぐな強い意志が目に見えるような、とにかく芯のある演技だった。
神々しさすら感じて拝みそうになってる私が現実に引き戻されたのは、ネイサンが一瞬で
自分が何をしたか分かってないようなあどけない顔に戻ったから。
そして喜び方もやっぱりバスケ部が3Pシュート決めた時と同じくらいのテンション。
あの空気であの場面であの演技であの猛追を跳ね除けるって、、、絶対自分でもエキサイトしちゃう内容を完遂して、それでなお飄々としてるって、、、人間としてアスリートとして男として格好良すぎた。
でもね、ネイサンすごい!格好良い!ありがとう!って清々しい気持ちになっただけで、これでもまだ落ちてないんです、私(笑)
今日はFSを見てた時の気持ちの記録。
落ちた瞬間についてはまたいつか。
the sun rising on the skyline
xoxo
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